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漫画家・志士ノまるさんに聞いた子育てのお話
デザイナーのお仕事をされながら漫画家としての活動、子育てと奮闘されている志士ノまるさん。お仕事の合間をぬってお話を聞く時間をいただきました。
PROFILE
志士ノ まるさん
自閉スペクトラム症と軽度知的障害で療育施設に通う6歳の息子との暮らしを綴る、30代シングルマザー。著作『シンママのはじめて育児は自閉症の子でした(KADOKAWA)』
X @shishishishimr
Instagram @maru.manga
「早く言ってもらえてよかった」
ーよろしくお願いします!今回は記事を読まれる方の大半が障がいやグレーゾーンの子どもを持つ親御さんになると思いますので、そういった目線でお話を伺えたらと思います。
わかりました。よろしくお願いします。
ーまずはいつも漫画にも登場している息子さんについて伺えたらと思います。どう言った診断がついていますか?
今は自閉スペクトラム症と軽度知的障害ですね。
ー障がいのことがわかったのは何歳のころでした?
最初、保育園から(気になると)言われたのが確か二歳ぐらい?です。私も結構忘れちゃってて。
ー(笑)最初の頃のことって忘れちゃいますよね。
その時すぐに診断がおりたわけではなくて、あとから療育手帳をもらうために書面が必要で、そこに「自閉スペクトラム症」って書いてあったのを見て「あーそうなんだ」って思ったんですよね。だからお医者さんから直接診断を言われたっていうのはうちはなかったんじゃないかな。
ーそれまで子育てをされてる中で、何か違和感って感じておられましたか?
ありましたありました。児童館で子どもがたくさん集まって職員さんが歌を歌ってくれた時とかに、みんなちゃんと座って歌を聞いてるけど、うちの子だけ座ってられなくて色んなとこ遊びに行っちゃうから「ん?」とは思ってたんですよ。その矢先に保育園の先生から言われたので。
ー率直にどう思われましたか?
ショックもあるけど、やっぱりその児童館の件があったところだったので。ショックが半分で、あとは「あーやっぱり」って。だから「早く言ってもらえてよかった」っていう感じですね。
ー別のインタビュー記事で拝見したのですが、その後、療育や専門家とつながるまでも大変だったとか
大変でしたね。急に療育につながるんじゃなくて、市役所の相談窓口(支援センター)で保健師さんに見てもらって。そこから療育を見学に行ってくださいって言われるけど、ちょうどその時にコロナ禍になっちゃって、私がフリーランスでやってた仕事がなくなってパートを始めたり。だからパートに行きつつ、見学に行きつつで大変でした。
ー児発は待機なく入れました?
探してたのが集団療育だったんですけど、比較的すぐには入れましたね。
「電車なら2,3時間乗れる」
ーそこから療育が開始するわけですが、息子さんってどんな性格のお子さんですか?
なんか多分…おっとり系です(笑)おとなしい感じの。
ー激しい癇癪(かんしゃく)とかもあまりなく
最近はないですね。もっと小さい頃はもちろん癇癪ありましたけどね、昔の漫画日記を見ると癇癪にぐったりしてる描写もあるからそれなりにあったのかな…もう忘れちゃいました!
ー集団の中では一人で遊びたい方ですか?
そうですね、まだ同世代の子とうまく遊ぶことができないので、1人でごろごろ遊んでたり先生と遊んでるようです。
ー漫画を拝見していて、言葉でのコミュニケーションも少しずつ取れるようになってる様子も描かれてますよね。志士ノまるさんとの間の意思疎通はどうですか?
だいぶ取れるようになってきましたね。言ってることが難しくなければ何かの返答はくるし、言ってる意味もちゃんと理解できてることも多いです。
ー息子さんの得意なこと苦手なことってどんなことがありますか?
うーん…好きなのは電車で。
こう言う子って「何か飛び抜けたものがあるよ」みたいによく言われますよね。
ー言いがちですよね。凸凹の凸の部分が大きくてみたいな。
でもそういうの一切ないんですよ(笑)
苦手なことは運動ですね。動くのが苦手みたいで。
あ、強いて言えば、しょっちゅう電車に乗ったり旅行にいったりしてるので、電車で2,3時間の距離なら全然(困ることなく)行ける。
ーめちゃくちゃ素晴らしい才能じゃないですか!何鉄ですか?
たぶん乗り鉄です。乗ったらもうそれで満足しちゃうみたいな。
ー交通機関を使うのが大変で悩まれるご家庭も多いですもんね
そうそう。障がいのない子でも大変って聞くし「え、そんなに乗ってられるの?」ってビックリされます。
ー志士ノまるさんは会社員としてデザイナーのお仕事もされていますが日中の息子さんの過ごす場所としてはどこになりますか?
今は保育園と児発に通わせてますね。
ー送り迎えもご自身で?
保育園は朝私が連れていってます。療育は来年からの放デイに向けて(そのまま上がれるように)入所した児発に通わせてます。そこが保育園まで迎えに行ってくれて、家まで送ってくれて、っていう感じですね。
ー療育は楽しそうに通ってます?
すごい楽しそうですよ。
ー保育園よりも楽しそうなぐらいだったり
そうそう。年長さんになると周りの子との差もついてきちゃうので、児発の子たちとの方が過ごしやすいんだと思います。
「子育ての話ができるママ友」
ーところで志士ノまるさんご自身ってどんな性格の方なんですか?
もともと大人しいタイプですね。
ーあまり積極的に前に出たりする方ではなく
そう。だから絵を描いてるのかなって。
小さい時は本当に大人しかったんですけど、それでも歳を重ねるごとに周りとも話すようになりました。
ー細かいタイプか大雑把なタイプかでいくと…
だいぶ大雑把ですね(笑)
家のこととか、なんにもやってない時ありますよ。
ー(笑)テテトコのユーザーさんもよく書いてらっしゃるんですけど、子育てのことをすべて完璧にやろうとするんじゃなくて、ちゃんと手抜きする方がうまく回ったりしますよね
私の場合はひとり親だから特に、手をぬくとこ抜いてかないと、やってられないですね(笑)
ー子育ての話ができるママ友もいらっしゃいますか?
いますいます。今の付き合いがあるママ友って、ほとんどが自分と同じひとり親か、障がいのある子を育ててる親なので、子育ての話も普通に。
ー話せる相手がいるといいですよね。障がい育児されているママ友さんとはどんなところで知り合われたんですか?
療育と、あとは保育園で同じ加配保育の。どちらも向こうから話しかけてくれました。
ー療育の雰囲気によっても打ち解けやすいところと、そうでもないところってありますもんね
ありますね。最初に行った集団療育は話しやすかったけど、その後に行った個別療育とかはそう言う感じが一切なくて。
でも集団も2,3年通ったけど、自分からは全然話しかけられなくて、打ち解けるまでにはだいぶかかりましたね。
ー普段からもママ友同士で会われたりもしてるんですか?
はい、遊びに行ったりとか。やっぱり障害のある子同士の方が出かけやすくって。
ー気を使わなくていいですもんね。行かれるのは公園とかですか?
お互いの家に遊びに行ったり、プールに行ったりもしています。
「2,3歳の頃が一番難しかった」
ー子育てしている中で困ったり難しいって感じる場面ってどんな時がありますか?
障がい児を育ててると、今の状況に慣れすぎちゃって、困ったことが浮かばないかもしれないですね…。
見た目だと息子が障がい児であることはわからないから、外で話しかけられても言葉を返せなくて、そう言う時はちょっと「あぁ…」とか思ったりはしますね。
あ、あとは独り言が最近多くて、家だったら全然いいけど電車の中とかでも言っちゃったりっていうのはありますね。
ー息子さんと意思疎通が取れるようになってきたっていうお話もありましたが、今と小さい頃を比べると大変さに違いはありますか?
その頃が一番難しかったです。買い物に行っても動き回っちゃって欲しいものも買えないし、(うまくいかなくて)泣きながら帰ってきたりとかもしてましたし。公園に行ってもどっか行っちゃうし。
ー周りの目が気になることとかも…
周りの目は2,3歳だと「まあいるよね」ぐらいで、気にならなかったんですけど、むしろ今の方が。「この大きさでこの動きしてるのは…」みたいな(笑)
ーそうか、そうですよね
当時は、自分が思った通りに動けないことが辛かったんだと思います。一切子どもに「通じない」「意思疎通ができない」っていうのがしんどかったです。
ーこっちが一方的に喋ってるだけ、みたいな状態になるんですよね
本当そうです。
ー周りのお友達に相談されたりしました?
仲のいい友達にはすぐに話しましたよ。「この子なら大丈夫だろう」っていう子にだけ話したので。
ーじゃあ「誰にも話せない」っていう部分での悩みはそこまではなく
ないですね。あと最近は「発達障がい」っていうものが世間に浸透しているのもあるし「発達障がいならもう(周囲に)言っちゃった方が楽だよね」っていうのも私の中ではありました。
ーその頃から今に至るまでに、息子さんに「こう接してあげたらいいんだ」っていう学びみたいなことってありました?
ないです。気づいたら成長してました。
ー息子さんが追いついてきてくれたんですね。子育てに向き合うモチベーションのために心がけていることとかってありますか?
んー、趣味が旅行なので定期的に旅行の予定を入れてそれを目標にがんばろう、ぐらいですね。
ーいいですね!それも立派なノウハウですよね
「イライラしたら仕方ない」って思ってて。あとは命の母を飲むぐらい(笑)
「かわいがられる子になってほしい」
ー読者さんからは「うちも一緒です」っていう共感の反応が多いですか?
多いですね。なんかそれが嬉しくて描いてる部分もあります。やっぱり共感がほしい(笑)
テテトコさんもそう言う感じですもんね?
ーありがとうございます(笑)私たちもまさに共感っていうものに価値を感じて作ったサービスです。漫画へのモチベが下がる時とかもそんなにないですか?
あーでもやっぱり忙しいと、どうしても…。
最近あまり描けてないんですけど(笑)
ー最後に、これからの息子さんに対して「こう言う風になっていってほしい」って何か考えてらっしゃることはありますか?
なんだろう…。
とりあえず今、子供の将来に対して考えているのが「お金が稼げるようになってほしい」って言うのがありますね。そのためには、障害者の雇用の枠の問題とか、給与の額の問題とか色々あるとは思うんですけど。
あとは「かわいがられる子になってほしいな」って言うのも思います。
ーああ。大事ですよね。
めちゃくちゃ大事だと思います。多分そこが一番かもしれないって思います。
ー例えば仕事でスキルが足りていなくてもキャラクターで乗り越えていくタイプの人っていますもんね。
今のところそんな感じのキャラになってるので、このままいってほしいなとは思ってます(笑)
ー今日はお忙しい中ありがとうございました!
普段の漫画作品そのままに飾らない雰囲気でお話してくださった志士ノまるさん。子育てとの向き合い方、息子さんの障がいの受け取り方など、読んでいると心が楽になるような、励まされるような、とても温かいインタビューになりました。
ご協力ありがとうございました!