2024.03.09
  • コラム

発達障害の子どもに集団の一斉指示が通らない時の対処法って?

集団の一斉指示が通らない背景

発達障害の特性による影響

発達障害やグレーゾーンの子どものもつ困り感との一つとして「集団で出される指示が通らない」ことが挙げられます。これには発達特性が関係していると考えられます。

その背景として、まず注意力の課題があげられます。
長い時間、集中するのが難しいため、一斉指示が出されているその瞬間に、他の刺激に気が散ってしまっているというケースもしばしば。例えば先生が「みんなロッカーからお道具箱を取って」と言っていても、隣の友達の動き、外の景色、好きなゲームの考え事など、様々な事象に気がいってしまい、耳に入ってこない、いわゆる『指示が通っていない』状態になっていることがあります。

また、抽象的な言葉の理解が難しいことも大きな要因です。例えば子どもたちが整列する場面で、先生が「きれいに並びなさい」といった抽象的な表現をした場合に、発達障害の子どもには具体的にイメージできないケースが多いです。

  • 例1: 「しっかり聞きなさい」よりも「目を見て、頷きながら聞いてください」と具体的に指示した方がよい
  • 例2: 「そこに座りなさい」ではなく、「この赤い丸い座布団の上に座ってください」と場所を特定するとわかりやすい
  • 例3: 「うるさいので静かにしなさい」ではなく、「ぴったり口を閉じて、じっとしていてください」と行動を具体化した方がよい
  • 例4: 「がんばりなさい」よりも「問題を一つずつ丁寧に解いていってください」と具体的な行動を示した方が理解しやすい
  • 例5: 「マナーを守りなさい」ではなく、「人の話を最後まで聞いて、順番に発言しましょう」と具体例を出した方がイメージがつきやすい

また、発達障害の子どもはルーティンへの固執が強いため、それまでの決まりと違うことを言われると受け入れにくいという側面もあります。集団での一斉指示は日々変化するので、そうした変化に対応しにくく、指示が通らない状態になっているのだと考えられます。

  • 例1: 毎朝同じ道を通っていたのに、道路工事で迂回しなければならなくなると混乱する
  • 例2: いつも同じ時間に給食を食べているのに、行事で時間が変わると焦ってしまう
  • 例3: 教室の机の配置が変わると、自分の場所がわからず戸惑ってしまう
  • 例4: 休み時間の過ごし方に決まりがあるのに、先生が別の遊びを指示すると拒否する
  • 例5: 家でのルーティン(就寝時間や食事の順番など)に些細な変化があると激しく反発する

加えて、発達障害の子どもには感覚過敏の割合が定型発達の子どもよりも高いことも関係します
例えば、耳への刺激を強く感じてしまう子どもの場合は、人の話し声に集中するのが難しいなど。学校の教室のように、複数の音が重なる環境では、指示の声が他の刺激に紛れてしまい、聞き逃してしまうこともあるかもしれません。

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一斉指示が通らないと抱えがちな困り感

一斉指示が通らない場合に、具体的にはどのような場面で影響が出るでしょうか。

指示に遅れが生じる

  • 例1: 先生の「準備運動をしましょう」の声に気付かず、他の児童がすでに運動を始めている時に、ぼーっとしてしまう。
  • 例2: 図工の時間に「下書きが終わったら絵の具で色を塗って」と言われても、まだ下書きに夢中になっていて、他の子の流れに遅れをとってしまう
  • 例3: グループワークで役割分担の指示が理解できず、取り掛かるのが遅れてしまう。結果、最初の作業を見落として付いていけなくなる。

周りから浮きがち?

  • 例1: 集団指示を理解できず、いつも行動が一歩出遅れている子は、クラスメイトからちょっと浮いてしまうことも
  • 例2: 指示に反応が遅ることでグループ分けの際に残されてしまい、すでに他の子だけでグループができてしまう、といった場面
  • 例3: 集団行動がスムーズにできないことで、クラスメイトからめんどくさがられることも

こうしたことが続けば、本人の自己肯定感が下がってしまうだけではなく、徐々に友達の輪に入りづらくなってしまう。と言った事態にもなりかねません。

一斉指示が通らないときの対処法と周囲の協力の工夫

周囲ができる対処法

そこで、保護者や先生など、周囲ができる具体的な対処法を見ていきましょう。なお、当然ですが、何事もスモールステップが重要なので、最初から難易度の高い場面を子どもに設定したり、本人が気乗りしないのに無理に訓練する必要はありません。まずは本人が対応できるレベルから徐々に、がポイントです。

個別での確認と再指示で本人の気づきを促す

仮に一斉指示を聞き逃しても、個別で「○○しなさい」と言い直してあげることで、子どもにも理解が深まります。子どもの様子をよく見て、理解が不十分そうならば、寄り添いながら再度伝えることが大切です。

  • 例:先生が「みんなお道具箱からハサミとノリを出して」と言っている時は気付かなかったが、「●●ちゃん、お道具箱からハサミとノリを出して」と個別に説明すれば、動き出すことができる。また、その際にしっかり目を合わせたり、肩を軽くトントンと叩いて気づかせてあげるなども有効です。

絵カードなどを活用した視覚的サポート

発達障害の子どもは、言葉よりも絵や実際の物を見て理解する力に優れている場合が多いため、絵カードや写真などの補助ツールを活用すれば、一斉指示の理解が深まりやすくなります。体育や課外授業では現実的に絵カードを使うことは難しいかもしれませんが、通常の授業や保育園のお部屋遊びでは有効です。

  • 例: 保育園の朝の会の流れを『ごあいさつ』『おうた』『えほん』などの絵カードを並べて貼り出しておくことで、子どもが「次はこれをやるんだな」と、あらかじめ予測しながら行動しやすくなる。

指示の手順は分けてひとつずつ伝える

発達障害やグレーゾーンの子は、複数の指示を一度に理解するのが苦手です(でもひとつの決まった指示を忠実に守る能力は高いことが多いです。これは個性なので優劣はないですね)。そのため「ランドセルを降ろして、上着を脱いで、靴を揃えなさい」ではなく、一つずつ伝え、確実に実行してから次に進むよう、手順を分けると指示が通りやすくなるでしょう。

先生との連携が不可欠

保護者自身は子どもへの理解や寄り添いを最大限おこなったとしても、実際に学校や保育園などの集団の場面で、付き添えるわけではありません。大切なのは先生に状況を伝え、個別のフォローを依頼することです。

昨今では、保育園でも加配制度を用意していたり、小学校でも発達支援の専門的知識を持つ先生が配属されていることも珍しくありません。先生方に子どもの特性を理解してもらい、なるべく個別の支援が入るよう働きかけることで、子どもの環境改善につながります。最初から焦るのではなく、まずは支援の力を借りながら、徐々に一人で行動を完結できるように続けていけばよいと考えましょう。

先生との連携が、集団での一斉指示を理解させるうえでの最重要ポイントとなります。次のようなことに気をつけて、先生と協力関係を築きましょう。

子どもの特性や配慮が必要な場面の説明

まず、子どもの特性と配慮が必要な場面を説明します。発達障害について、先生側に理解を求めるだけでなく、具体的にその子がどういった特性を持ち、どのような配慮が必要かを具体的に説明することが重要です。子どもの様子をイメージしやすくなり、実際の対応がしやすくなります。

  • 例:「言葉よりも絵を見せた方が理解しやすいです」
  • 例:「外遊びよりもお部屋で作業をするときの指示に遅れがちでした」
  • 例:「目に入ったものが気になってしまうことが多いので席順は前にしてください」

指示の出し方への提案

そして、指示の出し方への提案を行います。これは個別の対応だけでなく、集団に向けた指示の工夫にもつながる(定型発達の子にも使える)話であるため、実際にその子を見ている保護者ならではの貴重な意見として聞いてもらえることも多いです。

  • 例:「みんなお絵描きの準備をして」といった抽象的な表現より「絵の具セットと紙を用意して」と具体的に言った方がいいかもしれません

定期的な情報共有

さらに、定期的に子どもの様子を共有する場を設けることも重要です。日々の子育ての中で気づいた点や、園や学校での生活について話し合う機会を持つことで、先生と保護者の情報や認識のズレを防ぎ、一貫した対応を可能にします。

また、場合によってはその話し合いに児童発達支援、放課後等デイサービスの指導員、自治体の支援センターの担当者さんなどを交えた合同の会議を開く場合も。このように、関係各所と密に情報を交換し、同じ目標を持って協力することで、子どもの成長をよりサポートしやすくなります。

長期的な視点が不可欠

長期的対応が必要な理由

発達障害への対応では、長期的な視点を持つことが欠かせません。その理由は二点あります。

一つは、発達障害は一過性のものではなく、生涯付き合っていく障害だからです。年齢を重ねるごとに、求められる対応の仕方は変化します。保育園や幼稚園では簡単な手遊びの指示理解が目標だったのが、小学生になると複数の一斉指示が求められるようになり、社会人になれば…といったように、一生のうちに様々な課題に直面するため、長期的な視野が不可欠になります。

ただし、早期からの支援をおこなうことで、大人になるにつれて困り感が減っていくことは確かです。

二つ目の理由は、子どもの環境が変われば指導の仕方を変える必要があるためです。幼稚園では個別の教師が側にいて寄り添えますが、小学校に入れば30人以上の大人数の集団となるため、担任の先生がつきっきりというわけにはいきません。また、学童や習い事など、環境が変われば周囲の子どもや指導者の顔ぶれも変わり、柔軟な対応が求められます。

つまり、今はわずかな配慮で乗り越えられる課題でも、先の環境で別の困り感が発生することも考えられます。そのため、長期的な視野に立って、対応をアップデートし続ける心構えが必要になるのです。

寄り添う心構えが肝心

そして、長期的な対応を進めるうえで、次のような心構えを持つことが大切です。

まず、「焦らず繰り返し指導する」ことが重要です。発達障害の子どもへの指導では、一度で理解できないことが当たり前です。同じことを何度も、違う角度から伝え続けることが必要になります。初めは難しい指示も、回数を重ねれば少しずつわかるようになっていきます。保護者自身が焦らず、あきらめずに粘り強く接していくことが何より大切なのです。

また、「個別の目標設定」を意識することも重要なポイントです。発達障害児の学習スピードや対応力は個人差が大きいため、一人ひとりに合った目標値を設定する必要があります。クラス全体が○○ができることを最低ラインと決めてしまうと、発達障害の子どもは「できない」と判断され、余計に指導が大変なものになりかねません。個別最適な目標設定を心がけることが不可欠です。

そして、「少しずつ成長を認める」姿勢も大切になります。発達障害児の成長は一般の子ども以上に小さな積み重ねの連続です。とにかくスモールステップで物事を捉えて、小刻みな成長を親が認めること。できたかできていないか、というスキルの獲得にだけ目を向けるのだではなく、諦めずに最後まで取り組んだという姿勢自体を褒めてあげるなど、子どものやる気と自信につながる声かけやスキンシップをしてあげましょう。

叱るのが当たり前になってしまうと、親も子どもも疲弊していってしまうので、叱るべきポイントとそうでないポイントを見極めながら対処していきたいですね。

最後に、発達支援というとどうしても「苦手を克服すること」に着目しがちです。児発や放デイはそれが目的の施設なので当然です。ただ「苦手なことはうまくごまかしながら得意分野で勝負する」と言う対処方法を学んでいくことも、大切だという考えも頭に留めておいた方がいいでしょう。それも生きる力のひとつではないでしょうか。

一斉指示が通らない子どもへの対処まとめ

発達障害の子どもにとって、集団での指示は特に難しい課題となりますが、保護者や先生、そして周りの理解者が協力すれことで、必ず乗り越えていけるはずです。

まずは子どもの特性を踏まえた上で、個別の確認や視覚的サポート、手順の分割など、具体的な対処法を講じましょう。同時に、先生との連携を密にし、情報共有と対応の協力体制を整えることが大切です。

そして長期的な視野に立ち、年齢や環境の変化に合わせて柔軟に対応していく姿勢が求められます。焦らず繰り返し指導し、個別の目標を設定し、小さな成長を評価することが重要です。

さらに、周りの理解を広げることも欠かせません。クラスメイトや保護者に発達障害の実態を説明し、正しい理解を促すことで、温かく包み込む環境をつくっていきましょう。

発達障害の子どもへの対応は一朝一夕にはできません。しかし、保護者を中心に、関係者が力を合わせてサポートの輪を広げていけば、きっと子どもの可能性を最大限に伸ばすことができるはずです。焦らずに、でも決して投げ出さずに、寄り添い続けることが何よりも重要です。

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