2024.03.10
  • コラム

発達障害を持つ子供への支援。日本と海外の違いを調査しました

【この記事は以下の参考文献をもとに作成しています】
Autism Society of America(アメリカ自閉症協会)
National Autistic Society(イギリス自閉症協会)

発達障害への理解と支援は、世界共通の課題です。しかし、国によって発達障害に対する認識や支援の状況は大きく異なります。日本と海外の違いを知ることで、発達障害児を育てる上でのヒントが得られるかもしれません。

今回は、日本と欧米、そして近隣国の韓国を比較しながら、発達障害をめぐる様々な取り組みを見ていきましょう!

日本と海外で発達障害に対する認識はどう違う?

発達障害に対する社会の認識は、国によって大きく異なります。欧米諸国では、1990年代から発達障害への理解が広がり、社会的な受容が進んできました。一方、日本では2000年代に入ってから発達障害への関心が高まったものの、まだ十分な理解があるとは言えません。

海外と日本の発達障害の歴史と現状を知る

欧米では、1943年に自閉症が初めて報告されて以来、発達障害に関する研究が積み重ねられてきました。1990年代には、自閉症をはじめとする発達障害が広く知られるようになり、社会的な支援の必要性が認識されるようになりました。現在では、発達障害は個人の特性として捉えられ、多様性を尊重する社会の実現が目指されています。

一方、日本では長らく発達障害への理解が乏しく、支援体制も十分ではありませんでした。2005年4月に発達障害者支援法が施行され、徐々に社会的な関心が高まってきましたが、まだ発達障害に対する誤解は根強く残っていると感じます。

発達障害の社会の受け止め方の違いって?

欧米社会では、発達障害は個人の特性の一つとして捉えられ、多様性を尊重する文化があります。学校や職場では、発達障害者の特性に合わせた配慮や支援が積極的に行われています。また、発達障害当事者の活躍も目立ち、社会の中で活き活きと暮らす姿が広く知られるようになりました。

日本社会では、発達障害に対する理解はまだ十分とは言えません。「障害」というと特別視されがちで、発達障害児や家族が周囲の偏見に悩むケースも少なくありません。学校や職場での合理的配慮の提供も、まだ発展途上の段階です。社会全体で発達障害を正しく理解し、温かく受け入れていく必要があるでしょう。

発達障害のメディアでの取り上げられ方は?

欧米のメディアでは、発達障害を取り上げる機会が多く、当事者の声に耳を傾ける姿勢が見られます。発達障害者の持つ強みや可能性にも焦点が当てられ、ポジティブなイメージで伝えられることが少なくありません。こうした報道は、社会の理解を深める上で大きな役割を果たしています。

日本のメディアでも近年、発達障害を取り上げる機会は増えてきましたが、まだステレオタイプな見方が目立ちます。ただ、その中でも発達障害者を登場人物に出す『リエゾン』『厨房のありす』のようなテレビドラマが増えるなど、徐々に理解が進んでいるように感じます。

発達障害児の子育て事情 日本と海外の違い

発達障害やグレーゾーンの子供を育てる親にとって、周囲の理解と支援は欠かせません。しかし、子育て支援の状況は国によって大きく異なります。日本と海外の違いを見ていきましょう。

早期発見・早期療育の体制はどう違う?

早期発見と早期療育は、発達障害児の健やかな成長に欠かせません。欧米諸国では、乳幼児健診などを通じて発達の遅れを早期に発見し、必要な支援につなげる体制が整っています。例えば、アメリカでは「乳幼児期の介入制度」により、発達に遅れのある子どもとその家族に対し、3歳未満の早い段階から療育や支援が提供されます。

日本では、乳幼児健診の仕組みは整っているものの、発達障害の早期発見・早期療育の体制はまだ不十分です。発達の遅れが疑われても、専門的な診断や療育につながりにくいのが現状です。療育の質や内容にもばらつきがあり、地域差も大きいのが課題です。日本でも、もっと早い段階から一貫した支援が受けられる体制づくりが望まれます。

学校での支援や配慮に差はある?

学校では発達障害児が安心して学べるよう、適切な支援や配慮が欠かせません。欧米の学校では、一人ひとりの特性に合わせた個別支援計画が立てられ、きめ細かな配慮が行われています。例えば、イギリスの学校では、発達障害児一人ひとりに指導補助員がつき、授業についていけるようサポートする学校も少なくありません。

日本の学校でも、特別支援教育の制度が整備され、発達障害児への支援は広がってきました。しかし、まだ十分とは言えません。先生方の専門性や経験不足から、発達障害児の特性に合った指導が行えていないケースも少なくありません。地域格差が大きい、人員不足から十分な個別支援が受けられないなどの現状もあります。インクルーシブ教育を実現するためには、まだまだ改善の余地があるでしょう。

家族へのサポートの充実度を比較

発達障害児を育てる家族を支えるサポートは、とても重要です。

欧米諸国では、家族への情報提供や相談支援、レスパイトケアなど、様々なサービスが用意されています。例えば、イギリスでは「ソーシャルワーカー」と呼ばれる専門職が、発達障害児の家庭を定期的に訪問。育児の悩みを聞いたり、必要な支援につないだりと、家族に寄り添った支援を行います。

「レスパイトサービス」は、障害のある子どもを一時的に預かり、家族の休息や休養を支援するサービスです。日中の数時間から、泊まりがけまで様々。子どもは施設で過ごしたり、外出したりして、家族は自分の時間を持てます。家族のリフレッシュを助け、子育ての負担を軽減するのが目的です。

日本でも、家族支援の必要性は認識されるようになってきました。児童発達支援センターや相談支援事業所など、家族の相談に応じる機関は増えてきています。

しかし、まだサービスの質や量は十分とは言えず、不安なときにすぐに相談できるような「寄り添ってくれる専門家」の不在が感じられます。専門的な知識を持ったスタッフが不足していたり、家族のニーズに合ったプログラムが少なかったりと、課題は多いのが現状です。日本でも、もっと手厚い家族支援が望まれます。

大人の発達障害者への支援制度 日本と海外の取り組み

発達障害は、子ども時代だけの課題ではありません。大人になっても、就労や生活の様々な場面で支援が必要です。ここでは、日本と海外の取り組みを比べてみましょう。

就職や職場定着のための支援策の違い

発達障害者の就労支援は、欧米諸国で先行して取り組まれてきました。アメリカの「職業リハビリテーション制度」では、発達障害者一人ひとりに合わせた就労支援計画が立てられ、職業訓練や職場開拓、定着支援などが行われます。また、イギリスの「雇用・支援手当」では、発達障害者の雇用を促進するために、企業に助成金が支給されます。

日本でも近年、発達障害者の就労支援に力を入れるようになってきました。ハローワークと障害者就業・生活支援センターが連携し、発達障害者の特性に配慮した職業相談や紹介、職場定着支援などを行っています。しかし、支援を必要とする発達障害者に十分な支援が行き届いているとは言えず、企業の理解や受け入れ態勢も、まだ改善の余地があります。

日常生活のサポート体制の違い

発達障害者が地域で自立した生活を送るには、日常生活の様々な場面での支援が欠かせません。欧米諸国では、グループホームやホームヘルプサービスなど、発達障害者の生活を支える様々な社会資源が整備されています。例えば、スウェーデンでは、発達障害者が住み慣れた地域で生活し続けられるよう、行政が手厚い支援を行っています。

日本でも、発達障害者の地域生活支援は少しずつ広がってきました。相談支援事業所やヘルパー派遣など、サービスの種類は増えています。しかし、支援の質や量はまだ十分とは言えません。特に、グループホームなどの住まいの場は大幅に不足しているのが現状です。発達障害者が安心して暮らせる地域づくりに向けて、さらなる取り組みが求められています。

当事者団体の活動と影響力を比べる

発達障害者の権利を守り、社会の理解を広げる上で、当事者団体の果たす役割は大きいものがあります。欧米では、全国組織の自閉症協会や、各地の当事者団体が精力的に活動しています。世論に訴えかけ、政策提言を行うなど、社会を動かす大きな力となっているのです。文化的な違いもありますが、欧米では市民団体の持つ影響力がとても大きいのです。

日本でも近年、全国や各地で発達障害者の当事者団体が結成され、少しずつ存在感を増しています。しかし、まだ社会的な影響力は限定的。当事者の声を社会に届けていくためには、もっと多くの仲間と手を携え、活動の輪を広げていく必要があるでしょう。行政や専門家、そして社会の様々な立場の人たちとも協働し、発達障害者が暮らしやすい社会の実現を目指していくことが求められています。

発達障害者の活躍と理解を広げる取り組み

発達障害者が社会で活躍している姿は、私たちに希望を与えてくれます。同時に、発達障害への理解を広げる大きな力にもなります。海外と日本の取り組みを見てみましょう。

活躍する発達障害者から学ぶ

欧米では、自閉症の天才アーティスト、スティーブン・ウィルトシャーや、自閉症の大学教授として活躍するテンプル・グランディンなど、発達障害者のロールモデルが数多く知られています。彼らの活躍は、発達障害に対する社会の見方を大きく変える力となっているのです。

企業の発達障害者雇用の現状を知る

発達障害者の就労を支える上で、企業の果たす役割は非常に大きいものがあります。欧米では、発達障害者の能力を生かした雇用を進める企業が増えています。例えば、マイクロソフト社は自閉症者に特化した雇用プログラムを持ち、彼らの能力を開発部門などで活用しています。

日本でも近年、発達障害者の雇用に積極的に取り組む企業が出てきました。2024年1月にテレビ東京『カンブリア宮殿』で特集された久遠チョコレートには感動しました。

とはいえ、まだまだ一部の企業の取り組みにとどまっているのが現状です。もっと多くの企業が発達障害者の可能性に気づき、雇用の場を広げていくことが望まれます。

啓発イベントや広報活動の盛んさを比較

社会の理解を広げるためには、発達障害に関する情報発信や啓発活動が欠かせません。欧米では、自閉症啓発デーや発達障害啓発週間など、様々なキャンペーンが行われています。有名人が発達障害の理解と支援を呼びかけたり、当事者が体験を語ったりと、多彩な取り組みが見られます。

日本でも近年、啓発イベントや広報活動が増えてきました。世界自閉症啓発デーには、各地でイベントが開催されるようになりました。また、SNSでの情報発信や、当事者による講演会なども行われています。しかし、まだ社会の関心は限定的。もっと多くの人々に発達障害への理解を広げていくためには、さらなる工夫が必要です。当事者の声を社会に届ける新たな取り組みにも期待したいと思います。

発達障害支援の先進国に学ぶ

発達障害者支援の先進国と言われる国々から、私たちが学べることは数多くあります。ここでは、アメリカ、イギリス、北欧諸国の取り組みを紹介しましょう。

アメリカの「個別教育計画」に注目

アメリカの学校教育では、「個別教育計画(IEP)」が大きな役割を果たしています。発達障害のある子ども一人ひとりの特性やニーズに合わせて、customized教育プログラムが用意されるのです。教員、保護者、専門家が協力して計画を立て、必要な支援を行います。個別最適化された指導は、発達障害児の学びと成長を大きく後押しするものと言えるでしょう。

イギリスの「ソーシャルワーカー」に学ぶ

イギリスの「ソーシャルワーカー」は、発達障害児とその家族に寄り添う専門職として知られています。家庭を定期的に訪問し、子育ての悩みを聞いたり、必要な支援制度の利用を手助けしたりします。子どもの成長段階に合わせてきめ細かくサポートする姿は、まさに「伴走型支援」の好例と言えます。家族を丸ごと支える、そんな温かい支援のあり方は、日本でも大いに参考になるはずです。

北欧諸国の「ノーマライゼーション」の理念を理解する

北欧諸国は、障害者が地域で当たり前に暮らせる「ノーマライゼーション」の理念で知られています。

特に有名なのはスウェーデン。発達障害者が一般就労や地域生活を送れるよう、手厚い支援が行われています。住まい、仕事、余暇など、生活のあらゆる場面で、きめ細かなサポートを受けられる仕組みがあるのです。障害の有無に関わらず、誰もが地域の一員として暮らせる。そんな当たり前の社会を目指す姿勢は、私たち日本人も学ぶべきものがあるでしょう。

日本の発達障害支援の現状と課題

海外の取り組みを見てきましたが、では、日本の発達障害支援の現状はどうなっているのでしょうか。ここでは、日本の抱える課題と、これからの方向性を考えてみましょう。

発達障害者差別解消法の実効性を高めるには

2016年に施行された「発達障害者差別解消法」は、発達障害者の権利擁護に向けた大きな一歩となりました。しかし、実効性を高めるためには、まだまだ課題が残されています。例えば、差別的な扱いを受けた場合の救済措置が不十分な点。また、合理的配慮の提供を義務化するまでには至っていない点も問題です。法律の理念を実践につなげていくためには、さらなる改正と運用の工夫が求められるでしょう。

ライフステージに応じた継続的な支援を実現するために

発達障害者が豊かな人生を送るためには、ライフステージに応じた切れ目のない支援が欠かせません。しかし現状では、子ども期の支援に比べ、成人期の支援は立ち遅れているのが実情です。就労支援や生活支援の充実はもちろん、高齢期の支援にも目を向けていく必要があります。一人ひとりのニーズに寄り添い、生涯にわたって継続的な支援を届ける仕組みづくりが急務と言えるでしょう。

インクルーシブ教育を広げていくために必要なこと

インクルーシブ教育の理念は、特別支援教育の根幹をなすものです。しかし、その実践はまだ道半ば。発達障害のある子もない子も、同じ教室で共に学ぶ環境を整えるためには、まだまだ課題が山積しています。教員の専門性向上、合理的配慮の提供、バリアフリー化など、ハード・ソフト両面での改善が求められます。何より大切なのは、一人ひとりの多様性を認め合い、支え合う学校文化を育んでいくこと。インクルーシブ教育の理念を、教育の日常に根付かせていく地道な努力が欠かせません。

海外の事例から学び、日本らしい支援を目指す

海外の取り組みには、日本が学ぶべき点が数多くあります。一方で、日本独自の強みを活かした支援のあり方も、きっとあるはずです。海外の事例に学びつつ、日本らしい支援を模索していくことが大切だと思います。

日本の強み「周囲の配慮」を活かす方法

日本社会の美徳とも言える「思いやり」「気配り」の文化。それは、発達障害者支援においても大きな強みとなり得ます。例えば、幼稚園や保育園での「ちょっとした配慮」の積み重ね。「この子は苦手だから、順番を後ろにしてあげよう」「嫌いな食べ物は無理強いしないでおこう」。些細な心遣いの一つ一つが、発達障害児の生活を支えているのです。この「周囲の配慮」を、学校や職場、地域社会の隅々にまで広げていけたら。それが、日本らしい発達障害者支援の姿なのかもしれません。

アジアの発達障害支援をリードする日本へ

日本の発達障害支援は、まだ発展途上と言えます。しかし、アジアの中では比較的制度が整っている方。その強みを活かし、これからはアジアの発達障害支援をリードしていく存在となることを期待したいと思います。例えば、韓国など近隣諸国と連携し、支援のノウハウを共有したり、当事者団体の交流を図ったり。お互いの経験を学び合うことで、アジア全体の発達障害支援を底上げしていけるはずです。「共生社会」の実現に向け、日本が果たすべき役割は大きいと言えるでしょう。

まとめ

日本と海外の発達障害事情を見てきました。制度や取り組みに違いはあれど、発達障害者が豊かに生きられる社会を目指す思いは、国境を越えて共通です。

海外の優れた実践に学ぶ謙虚さを忘れずに、そして日本の強みを再認識すること。発達障害者の声に耳を傾け、当事者の視点を大切にすること。社会のあらゆる場面で、発達障害への理解と支援を広げていくこと。一歩ずつ進んでいきたいですね。

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