- 子育てコラム
発達障害の子供はなぜ増えた?その背景と増えている要因について
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※この記事で紹介するデータや考察は以下の資料・論文を参考にしています
・通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(文部科学省)
・発達障害の増加と懸念される原因についての一考察(早稲田教育評論 第 26 巻第1号 坂爪一幸)
発達障害の子供の数は増加傾向
近年、発達障害と診断される子どもが増えているというデータがニュースなどで取り上げられることが多くなりました。文部科学省の調査においても、通常の学級に在籍する児童生徒のうち、学習面又は行動面で著しい困難を示す子どもの割合が増加傾向にあることが明らかになっています。この傾向は特別支援学級や特別支援学校でも同様に見られ、全体的に発達障害の子どもが増えている状況がうかがえます。
ではなぜ近年、発達障害の子どもが増えたのでしょうか。文部科学省のデータや論文をもとにその理由について紹介していきます。
発達障害とグレーゾーン – 支援を必要とする子どもたち
発達障害とは、脳機能の発達に関係する障害で、学習面や行動面、コミュニケーションなどに困難が生じる状態を指します。代表的なものとしては、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などが挙げられます。
また発達障害の診断がつかないものの、学習や生活に何らかの困難を抱える、いわゆる「グレーゾーン」の子どもたちが数多く存在するのが現状です。発達障害に対する社会の理解が深まるにつれ、近年ではグレーゾーンの子どもたちにも目が向けられるようになってきました。
診断基準の変更によって発達障害の子供が増えた一面も
発達障害の子どもが増えている背景には、診断基準の変更も大きく関係していると考えられています。特に2013年に改訂された精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)での変更は、発達障害児が増えている大きな要因と考えられます。
DSM-5では、これまで別々の障害とされてきた自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などを、自閉症スペクトラム障害(ASD)として一つのカテゴリーにまとめました。また、ASDの診断基準自体も改められ、より広い特性が含まれるようになったのです。
こうした変更により、これまでは診断基準からは外れていた子どもたちが、ASDの診断を受けるようになったと考えられています。特に、知的な遅れがなく、言葉の発達にも大きな遅れがない、いわゆる「高機能自閉症」の子どもたちが、診断されやすくなったと言われています。
また、DSM-5ではADHDの診断基準も少し変更され、症状が出現し始める年齢が「7歳以前」から「12歳以前」に引き上げられました。つまり、それまでよりも「遅れて症状が出現してくる子供」に対しても診断できるという変更です。このことで、より多くの子どもたちがADHDの診断を受けるようになった可能性があります。
こうした診断基準の変更は、これまで見過ごされてきた発達障害の子どもたちの発見につながる、重要な転換点となりました。より多くの子どもたちが、自分の特性に合った支援を受けられるようになったのは、日本の発達支援の進歩の中でも大きな前進だと言えるでしょう。
一方で、診断基準が緩くなったことで、過剰診断いわゆる誤診への懸念の声があることも事実です。診断は慎重に行われる必要がありますが、支援が必要な子どもを見落とさないことが何より大切だと考えられます。
発達障害に対する社会の意識変化と認知度の向上
発達障害の子どもが増えているもう一つの大きな理由は、社会全体の意識の変化にあると言えるでしょう。以前は、発達障害という言葉自体があまり知られていませんでした。実際に今この記事を読んでいる方の親世代では、あまり認知度は高くないのではないでしょうか。
たとえば、多動な子どもは「落ち着きがない」と表され、コミュニケーションが苦手な子どもは「引っ込み思案」と言われるなど。学習障害によって困難を抱えていても「怠けている」「やる気がない」と決めつけられることも少なくありませんでした。
しかし近年、発達障害に関する情報が広く社会に知られるようになり、少しずつ理解が深まってきました。2005年に発達障害者支援法が施行され、自閉症、ADHD、LDなどが法律上で定義されたことも大きな転機となりました。学校現場でも、2007年に特別支援教育が始まり、通常の学級に在籍する発達障害の子どもたちへの支援が広がってきました。
メディアでも、発達障害のトピックをニュースなどで取り扱うことも増え、発達障害をテーマにしたドラマや書籍、ドキュメンタリー番組なども数多く制作されるようになりました。そうした影響もあり、社会全体の認知度が確実に上がってきたと言えます。
認知度の向上は、子どもの発達の問題に早期に気づくことにつながります。発達の凸凹に不安を覚えた親が、相談機関を訪れるための敷居は、かつてに比べれば確実に下がっているかもしれません。インクルーシブ教育という考えが徐々に広まる中で、幼稚園や保育園、学校の先生も、発達障害の可能性を念頭に置いて子どもを見るようになってきているのではないでしょうか。
その結果、以前なら見過ごされていたケースにも、適切なアセスメント(評価・分析)と支援の目が向けられるようになりました。前述したグレーゾーンの子供に関しても同様で、たとえ診断がつかなくても、特性に合った支援を受けられるようにすることが大切だという認識が広がりつつあります。それも、支援を必要とする子どもの数の増加の一因であると考えられるかもしれません。
こうした動きは、ある意味で必然的な流れだったのかもしれません。特性の有無に関わらず、一人ひとりの子どもの尊厳が大切にされるべきだという考え方が、インクルーシブ教育の広がりとともに浸透してきました。診断の有無ではなく、その子その子に必要な支援は何かという視点に立つことが重視されるようになったのです。
社会の意識が徐々に変わり始めており、発達障害の子どもが増えた理由は、それが表面化してきた証なのかもしれません。
早期発見・早期支援の重要性
発達障害の子どもが増えている今、早期発見・早期支援の重要性が指摘されています。子育ての中で、発達の遅れや偏りに気づいたら、早めに専門家に相談することも大切です。
言葉の遅れ、対人関係の難しさ、多動・衝動的な行動など、子どもの様子で気になることがあれば、自治体の発達相談や医療機関を訪ねてみるのが良いでしょう。
まとめ: 発達障害の子どもの成長を支えるために
発達障害の子どもがなぜ増えたのか?それは、診断基準の変化だけではなく、社会全体で子育てを支えていく必要性を示唆しているのかもしれません。
同時に、発達障害への理解を深め、多様性を認め合う意識を社会全体で育んでいくことも大切です。障害の有無に関わらず、一人ひとりの個性や可能性を大切にする環境を作っていきたいですね。