2024.03.17
  • コラム

【保護者向け】療育の始め方や種類。知っておくべきポイントを徹底解説!

療育とは

療育とは、障害のある、またはその可能性がある子どもに対して、一人ひとりの障害特性や発達状況に合わせて、将来の自立や社会参加などを目指して行う支援やサポートのことを指します。
療育という言葉は、かつては身体障害者の社会的自立に向けた「治療」と「教育」を合わせた概念でしたが、現在では身体障害だけでなく発達障害など、広義の障害のある子どもや、診断はついていなくても発達特性により日常生活の中で困難を伴う子ども全般も対象となります。また、本人だけでなく家族支援なども含む幅広い概念として捉えられています。

療育の対象

療育の対象となるのは、原則18歳未満の子どもです。障害種別としては、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)のいずれかに該当する場合が対象となります。
手帳の有無に関わらず、児童相談所や市区町村の相談窓口、医師の診療を経て療育の必要性が認められれば、サービスを利用することができるため、通所しているのは必ずしも障害の診断があるとは限りません。なお、障害児通所支援における放課後等デイサービスでは、児童福祉法の規定により、満20歳までの利用が可能とされています。

療育の種類と方法

個別療育と集団療育

療育の方法には、大きく分けて「個別療育」と「集団療育」の2種類があります。個別療育は、子どもと支援員が1対1で行うもので、子ども一人ひとりの特性や課題に応じたきめ細やかな支援が特徴です。
一方、集団療育は、複数の子どもが集まって行うもので、子ども同士のコミュニケーションや社会性の向上を主な目的としています。それぞれのメリットを生かし、子どもの状況に合わせて適切な療育方法を、時に組み合わせながら選択することが大切です。

療育における5つの指導領域

児童発達支援ガイドラインでは、療育の指導領域を以下の5つに分類しています。

  • 1. 健康・生活:基本的生活習慣の自立に向けた支援を行います。
  • 2. 運動・感覚:身体機能の発達を促すとともに、感覚の偏りに対する支援も行います。
  • 3. 認知・行動:情報の理解力や状況判断力の向上、行動上の問題への対応などに取り組みます。
  • 4. 言語・コミュニケーション:言葉の習得やコミュニケーション手段の獲得を目指します。
  • 5. 人間関係・社会性:他者との関わり方や集団参加のスキルを育てます。

これらの領域は相互に関連しており、包括的な支援を通して、子どもの健やかな発達を促していくことが目指されています。

代表的な療育プログラム

TEACCHプログラム

TEACCHプログラムは、自閉症の特性を踏まえた構造化された教育方法です。視覚的な情報を用いて、子どもが見通しを持ちやすい環境を整えることが特徴です。具体的には、スケジュールを視覚化したり、作業スペースを分かりやすく区切ったりするなどの工夫を行います。
また、子どもの興味・関心や得意なことを活かした学習活動を取り入れ、自発的な行動を引き出すことを重視します。
TEACCHプログラムは、自閉症の子どもの情緒の安定と自立した行動の促進に効果があるとされています。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)

SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、対人関係やコミュニケーションに困難を抱える子どもを対象とした療育プログラムです。具体的な社会的場面を設定し、ロールプレイやフィードバックを通して、適切な行動の仕方を学ぶことを目的としています。
例えば、自己紹介の仕方や、友達との会話の始め方、感情のコントロール方法などを、実際に練習しながら身につけていきます。
SSTは、子どもの社会性の向上や対人関係の改善効果が期待できます。

言語療法

言語療法は、言葉の理解や表出に困難がある子どもを対象とした療育プログラムです。言語聴覚士が中心となって、発音の練習や語彙の拡充、文法の習得などを支援します。絵カードや実物を用いたり、遊びを取り入れたりするなど、子どもの興味・関心を引き出しながら、言語能力の向上を図ります。
また、コミュニケーション全般についても指導し、ジェスチャーなどの言葉以外の手段の活用も促します。
言語療法は、子どもの言語発達を促し、コミュニケーション能力の向上に寄与します。

運動療法

運動療法は、運動機能の発達に遅れや偏りがある子どもを対象とした療育プログラムです。理学療法士や作業療法士が中心となって、子どもの運動発達段階に合わせた指導を行います。
例えば、バランス感覚を養うための練習や、ボール遊びを通した手指の巧緻性の向上、なわとびや縄跳びなどを用いた全身の協調性の改善などを行います。
運動療法は、子どもの基本的な運動能力の向上だけでなく、自信やチャレンジ精神の育成にも効果が期待できます。

応用行動分析(ABA)

応用行動分析(ABA)は、行動科学の原理を用いて、子どもの行動を分析し、適切な行動を増やすことを目的とした療育プログラムです。行動の前後にある環境要因に着目し、望ましい行動を引き出すための工夫を行います。
例えば、課題に取り組んだ後に褒めるなどの強化子を与えることで、その行動が増えるようにします。ABAは、コミュニケーションや社会性の向上が期待されています。

療育プログラムで用いられる5つのテーマと内容例

事業者が療育プログラムを提供する際には、「運動」「学習」「コミュニケーション」など、狙いに合わせたプログラムが考えられます。
例えば運動療育では、マット運動、トランポリン、ボール遊びなどを通して体の動きを促します。音楽療法では、歌や楽器演奏、リズム遊びなどを行い、表現力や感受性を育みます。
それぞれの事業所によって、どの部分に力を入れているかは異なるため、保護者は通常の習い事と同じように、自分の子どもに合わせた通所施設を検討する必要があります。

療育に関わる専門家

療育には、医師、心理士、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、児童指導員など、様々な専門職が関わります。医師は診断や医学的管理を担当し、心理士は発達検査や心理面での支援を行います。言語聴覚士は言語・コミュニケーションの評価と訓練を、作業療法士は感覚統合や日常生活動作の改善を、理学療法士は運動機能の向上を目指します。児童指導員は、日々の療育活動の実施や子どもの育ちを支える役割を担います。
多職種がチームを組み、専門性を生かしながら連携することで、子どもと家族に対する総合的な支援が可能になります。

療育を受けられる施設

療育を受けられる施設には、大きく分けて「通所支援型」と「入所支援型」の2種類があります。通所支援型は、児童発達支援センターや児童発達支援事業所、放課後等デイサービスなどがあり、子どもが施設に通いながら、日帰りで療育を受けます。
入所支援型は、福祉型障害児入所施設と医療型障害児入所施設に分かれ、施設に入所して、日常的な療育と生活支援を受けることができます。それぞれの施設では、子ども一人ひとりの状況に応じた個別支援計画を作成し、体系的で継続的な支援を行っています。

療育で子供はどう成長する?

適切な療育を継続的に受けることで、子どもの苦手な部分の克服や得意な部分の伸長、社会性の向上などが期待できます。また、達成感や自己肯定感を育むことにもつながります。
ただし、療育の効果には個人差があり、目に見える変化が現れるまでに時間を要する場合もあります。子どもの特性や発達の状況、家庭環境なども考慮しながら、長期的な視点を持って取り組むことが重要です。
保護者自身が子どもの理解者となり、専門家と連携しながら、日常生活の中で療育に通った意味を実感できるよう、関わっていくことが求められます。

療育の費用と助成制度

療育にかかる費用は、児童福祉法に基づく障害児通所支援・入所支援の枠組みの中で、公費負担の対象となります。
原則として、利用者負担は1割、残りの9割は国と自治体が負担します。ただし、世帯の所得に応じて、1ヶ月あたりの利用者負担額に上限が設定されています。また、自治体独自の助成制度を設けている場合もあるため、詳しくは居住地の市区町村窓口に問い合わせることをおすすめします。
経済的な理由で療育を受けることを諦めることのないよう、支援制度の活用を検討することが大切です。

療育を受ける方法

療育を受けるためには、まず市区町村の相談窓口や児童相談所に相談し、受給者証の申請を行う必要があります。申請の際には、医師の診断書や障害児支援利用計画案などの書類が求められます。
受給者証の交付を受けたら、利用したい施設に連絡を取り、事前の見学や体験利用を経て、正式な契約を結びます。その後は、個別支援計画に基づいて、定期的に通所しながら療育を受けていくことになります。

療育における個別支援計画の作成と活用

個別支援計画は、子ども一人ひとりのニーズに応じて作成される、療育の指針となる計画です。子どもや保護者のアセスメントを通して、現状の課題や目標、支援の方法や期間などを具体的に定めていきます。
計画の作成には、多職種の視点を取り入れ、保護者の意向も尊重しながら進めることが重要です。定期的なモニタリングを行い、子どもの発達の状況に合わせて、柔軟に内容を見直していくことも必要です。個別支援計画は、支援の一貫性を保ち、保護者と施設との共通理解を深めるためのツールとしても活用されます。

療育と就学・進学支援

療育は、就学前から学齢期、そして進学・就労に向けた準備期まで、子どもの成長に合わせて継続的に行われることが重要です。就学前は、集団生活への適応力や認知面の発達を促す支援に重点が置かれます。就学後は、学校生活での課題への対応や、放課後の療育の場の確保などが求められます。
進学に向けては、本人の意向や適性を踏まえながら、必要な配慮や支援体制について、学校との連携を図っていくことが不可欠です。子どもの将来を見据えた長期的な視点を持ち、切れ目のない支援を行うために、関係機関との協力体制を築いていくことが大切です。

ペアレント・トレーニングの役割

ペアレント・トレーニングとは、発達障害のある子どもの保護者を対象とした学習プログラムです。発達障害の特性理解や具体的な対応方法、行動へのアプローチの仕方などを学んでいきます。子どもへの関わり方を見直し、肯定的な親子関係を築くためのスキルを身につけることを目的としています。
ペアレント・トレーニングを受けることで、保護者は子育てに対する自信を高め、子どもの理解者・協力者としての役割を果たしていくことができるようになります。

成人期の発達障害者への支援

発達障害は、成人期になっても生活の中に困り感を抱えることが少なくありません。就労や対人関係、金銭管理などの面で、様々な課題を抱えている人が多いのが現状です。こうした課題に対しては、福祉サービスや就労支援など、ライフステージに応じた支援を組み合わせていくことが求められます。
成人期の発達障害者が、地域の中で自分らしく生活していくために、福祉・医療・労働などの各分野が連携し、生涯にわたる切れ目のない支援体制を整備していくことが喫緊の課題となっています。

療育を始めるタイミング

療育は、発達の課題が明らかになった時点で、できるだけ早期に開始することが望ましいとされています。乳幼児健診や保育園・幼稚園での集団生活の中で、発達の偏りや遅れに気づくことがあります。子どもの行動面での特徴から、保護者自身が違和感を覚えることもあるでしょう。
発達障害の可能性が疑われる場合は、まずは身近な相談機関に連絡を取り、専門機関での診断を受けることが大切です。診断の有無に関わらず、子どもの発達の状況から支援の必要性が認められれば、療育を開始することができます。
早期療育は、二次的な問題の予防や、保護者の子ども理解の促進、子育てスキルの向上などの点でも大きな意義があります。子どもの健やかな成長を支えるために、できるだけ早い段階から療育に取り組んでいくことが求められています。

児発・放デイの不足と早期申込みのすすめ

近年、発達障害への社会的な理解が進む中、療育のニーズも高まっており、児発・放デイなどの療育施設の不足が深刻な問題となっています。地域によって事業所数の隔たりが見られるため、通所させたい施設があっても定員が満員で、希望する時期に療育を開始できないケースもあります。すでに通っている児童が退所するまで入所できない、いわゆる「キャンセル待ち」が何人もいるという状態になることも…。
こうした状況を踏まえ、療育が必要と思われる場合は、できるだけ早い段階で市区町村の相談窓口や児童相談所に相談し、療育施設の情報を収集することが大切です。そして、子どもの発達の状態や家庭の事情を考慮しながら、複数の施設に申込みを行っておくことをおすすめします。

まとめ

療育は、発達障害のある子どもたちの可能性を最大限に引き出し、自立と社会参加を促すための専門的な支援です。個々の特性に応じた療育プログラムを通して、子どもの発達を促すとともに、保護者の子ども理解や子育てスキルの向上を図ることを目的としています。
療育の効果を高めるためには、子どもや保護者のニーズを的確に把握し、専門職間の連携を密にしながら、体系的で継続的な支援を行うことが不可欠です。また、ライフステージに応じた切れ目のない支援体制を整備し、地域社会の理解と協力を得ながら、発達障害のある人たちが安心して暮らせる環境を作っていくことが求められています。

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