2024.03.28
  • コラム

感覚統合に繋がるトレーニングと室内でもできる遊びの例

感覚統合とは

感覚統合とは、私たちが日常生活を送る上で必要不可欠な能力です。脳が体の感覚器官から送られてくる情報を整理・統合し、適切に反応することで、私たちは環境に適応した行動をとることができます。つまり、感覚統合は、脳の様々な部位が協調して働くことによって成り立っているのです。

感覚統合は、子どもの発達における土台となる能力の一つと言えます。もしも感覚統合に課題があると、子どもは外部からの刺激に対して過敏に反応したり、逆に鈍感になったりします。また、姿勢や運動面での不器用さが目立つこともあります。

感覚統合遊びの効果

感覚統合が苦手な子の特徴

感覚統合が苦手な子どもは、一例として以下のような特徴が見られることがあります。

  • 大きな音や光、触れられることを極端に嫌がる(感覚過敏)
  • 痛みや温度の変化に気づきにくい(感覚鈍麻)
  • 手先や全身の動きがぎこちない(協調運動の難しさ)
  • 姿勢が悪く、じっとしていられない(体幹の低緊張)

これらの特徴は、子どもの日常生活にも影響を及ぼします。感覚統合の課題に早めに気づき、必要に応じて適切な支援を検討することが大切です。

感覚統合遊びの目的

感覚統合遊びは、子どもの感覚処理の能力を高め、脳の発達を促すことを目的としています。具体的には、以下のような効果が期待できます。

  • 感覚の調整力が高まる(過敏や鈍麻が改善する)
  • 姿勢や運動の安定性が増す(体幹が安定する)
  • 集中力や注意力が高まる(学習面の向上)
  • 対人関係やコミュニケーション力が高まる(社会性の発達)

これらの能力は、子どもの生活全般に良い影響を与えます。感覚統合遊びを通して、子どもの健やかな発達を促していきましょう。

感覚統合を発達させる3つの感覚とその特徴

感覚統合を発達させるためには、3つの感覚に着目することが大切です。それが触覚、固有受容覚、前庭覚です。これらの感覚は、子どもの脳の発達に大きく関わっています。

触覚

触覚は、皮膚に存在する受容器によって、触れた物の感触や温度、痛みなどを感じ取る感覚です。子どもは、触覚を通して外界を探索し、さまざまな経験を積み重ねています。しかし、中には触覚の過敏や鈍麻によって、日常生活に支障をきたす子どももいます。

触覚が過敏な場合の特徴と対応

触覚が過敏な子どもは、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 人に触れられるのを嫌がる
  • 服のタグや縫い目が気になって着られない
  • 歯磨きや髪を梳かすのを嫌がる
  • 特定の食感のものを極端に嫌がる

このような場合、刺激となる要因を取り除くことが大切です。
例えば衣服の例であれば、縫い目の少ないものを選んだり、タグを取り外したりするのも一つの方法です。また、子どもの感覚特性に合わせて、徐々に触覚刺激に慣れていくような働きかけを行うことも効果的です。

触覚が鈍麻な場合の特徴と対応

一方、触覚鈍麻の子どもは、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 痛みや温度の変化に気づきにくい
  • 力加減が分からずに物を壊してしまう
  • 汚れや濡れに気づかない
  • 口の中に食べ物を溜め込んでしまう

このような場合、日常生活の中で触覚を意識的に使う機会を増やすことが大切です。例えば、料理の手伝いをしたり、工作遊びをしたりするなど。

固有受容覚

固有受容覚は、筋肉や関節、腱にある受容器から、身体の位置や動きの情報を感知する感覚です。姿勢を保持したり、力加減を調整したりする際に重要な役割を果たしています。固有受容覚に課題がある子どもは、姿勢が悪かったり、動きがぎこちなかったりすることがあります。

固有受容覚が鈍感な場合の特徴と対応

固有受容覚が鈍感な子どもは、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 姿勢が悪く、椅子に座っている時に姿勢を保てない
  • 歩くときにふらついたり、よくつまずいたりする
  • 力加減が分からず、ドアを閉める時に大きな音を立ててしまう
  • クレヨンを持つ時に力が入りすぎて折れてしまう

このような場合、日常生活の中で全身を使った動きを多く取り入れることが大切です。例えば、鉄棒や縄跳び、なわとびなどの運動遊びがおすすめです。また、バランスボールやトランポリンを使った感覚統合遊びも定番です。

前庭覚

前庭覚は、内耳にある前庭器官から、頭の位置や動きの情報を感知する感覚です。バランスを取ったり、空間認識をしたりする際に重要な役割を果たしています。前庭覚に課題がある子どもは、揺れや回転に対して過敏に反応したり、逆に反応が鈍かったりすることがあります。

前庭覚が過敏な場合の特徴と対応

前庭覚過敏の子どもは、以下のような特徴が見られることがあります。

  • ブランコやすべり台、エレベーターなどを極端に嫌がる
  • 車酔いしやすい
  • 高い所が怖くて上れない
  • 頭を下にするのを嫌がる

このような場合、子どもが心地よいと感じられる程度の前庭刺激から始めることが大切です。例えば、ゆっくりとしたリズムでブランコに乗ったり、ハンモックで揺られたりするのも良い方法です。段階的に刺激の強度を上げていくことで、徐々に前庭覚の調整力を高めていきます。

前庭覚が鈍感な場合の特徴と対応

一方、前庭覚が鈍感な子どもは、以下のような特徴が見られることがあります。

  • 大きな揺れや回転運動を好む
  • 高い所から平気で飛び降りる
  • 絶えず動き回っていないと落ち着かない
  • バランスを取るのが苦手で、よく転倒する

このような場合、前庭刺激に敏感に反応できるよう、感覚統合遊びを多く取り入れることが大切です。日常生活の中では、すべり台やブランコ、シーソーなどで思い切り体を動かす経験を増やすことが効果的です。ただし、安全面には十分に配慮する必要があります。

家など室内でできる感覚統合遊びとトレーニングの具体例

感覚統合の発達を促すためには、家庭など室内で気軽に取り組める遊びやトレーニングを行うことが大切です。ここでは、触覚、固有受容覚、前庭覚それぞれに対して、具体的な働きかけ方を紹介します。

触覚への働きかけ

触覚過敏の子への感覚遊びの具体例

  • 手触りの異なる素材(綿、ビロード、サテンなど)に触れる遊び
  • 手指を使った粘土遊びや泥遊び
  • お米やビーズなどを素足で踏む感覚遊び

手触りの異なる素材に触れたり、指で絵の具を塗ったりすることで、触覚の感受性を高めることができます。嫌がる場合は、子どもが心地よいと感じられる素材から始めましょう。

触覚鈍麻の子への感覚遊びの具体例

  • バスタイムにスポンジやブラシで体を擦る
  • 親子でマッサージ遊び

お風呂の時間を利用して、体を擦ったりマッサージしたりすることで、触覚への気づきを高めることができます。

固有受容覚への働きかけ

体幹を鍛えるバランスボールの使い方

  • バランスボールに座って本を読む
  • バランスボールの上で四つ這いになる
  • バランスボールに寝転がってテレビを見る

バランスボールに座ったり寝転がったりすることで、体幹を鍛えることができます。本を読んだりテレビを見たりしながら行うことで、楽しみながらトレーニングできるでしょう。

家庭でできるトランポリン遊びのアイデア

  • 座ったままゆっくりバウンドする
  • 膝立ちでバウンドする
  • 立ってその場でジャンプする

トランポリンは、体全体を使う運動であり、固有受容覚を刺激するのに最適です。子どもの発達段階に合わせて、座ったり膝立ちになったりしながら行いましょう。

お家でできるボディプッシュの工夫

  • 布団や毛布に包まれる圧迫遊び
  • クッションに挟まれてプレスされる遊び
  • 体育マットを丸めて「巻き寿司ごっこ」

全身に圧迫刺激を与えることで、固有受容覚を刺激することができます。布団に包まれたり、クッションに挟まれたりするのは、子どもにとって心地よい刺激になるでしょう。

前庭覚への働きかけ

前庭覚過敏の子への感覚遊びの具体例

  • ハンモックやブランコでゆっくりリズミカルに揺らす
  • ヨガボールなどでゆっくり転がるあそび

ゆっくりとしたリズムで揺らしたり、転がしたりすることで、前庭覚への刺激を調整することができます。子どもが心地よいと感じられるペースで行うことが大切です。

前庭覚鈍感の子への感覚遊びの具体例

  • すべり台、ブランコなど大きな動きのある公園遊び
  • 布団の上でごろごろ転がる、布団を持ち上げて揺らす遊び
  • キッチンターナーをコマのように回して前庭刺激を与える

大きな動きを伴う遊具で思い切り体を動かしたり、布団の上で転がったりすることで、前庭覚を刺激することができます。キッチンターナーを回すのも、目と手の協応を高めるのに効果的です。

視覚への働きかけ

視覚過敏の子への室内環境の工夫

  • 自然光を取り入れ、照明の明るさを調整する
  • 視覚的な刺激が多すぎる壁面装飾は避ける
  • パーテーションなどで視界を遮り、落ち着ける空間を作る

視覚過敏の子どもにとって、まぶしすぎる光や煩雑な視覚刺激は負担になります。室内の環境を整えることで、子どもが心地よく過ごせるようにしましょう

聴覚への働きかけ

聴覚過敏の子への室内の音環境の工夫

  • 吸音材を使って部屋の響きを抑える
  • BGMは子どもの好みに合わせ、音量に気を付ける
  • イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンを活用する

聴覚過敏の子どもにとって、大きな物音や騒音は苦痛になることがあります。吸音材を使ったり、BGMの音量を調整したりして、心地よい音環境を整えましょう。必要に応じて、イヤーマフなどを使うのも効果的です。

感覚統合遊びのポイントと注意点

感覚統合遊びを行う際には、いくつかのポイントに気を付けることが大切です。子どもの反応をよく観察し、楽しみながら無理なく行えるよう心がけましょう。

感覚統合遊びの進め方のコツ

子どもの反応を見ながら調整する

感覚統合遊びでは、子どもの反応を見ながら進めることが大切です。嫌がる様子が見られたら、無理強いせずに別の遊びに切り替えるなど、柔軟に対応しましょう。逆に、楽しんでいる様子が見られたら、もう少し続けてみるのも良いでしょう。

無理強いせず楽しく行う

感覚統合遊びは、子どもが楽しいと感じられることが何より大切です。遊びの中で子どもが主導権を持ち、自分のペースで探索できるようにしましょう。失敗を恐れずチャレンジできる環境を作ることで、子どもの自発性が高まります。

感覚統合遊びの注意点

子どもの感覚特性を理解する

感覚統合遊びを行う前に、子どもの感覚特性をよく理解することが大切です。感覚過敏や感覚鈍麻など、子どもによって感覚の特徴は異なります。子どもの行動をよく観察し、どのような刺激が心地よいのか、どのような刺激が苦手なのかを把握しておきましょう。

安全面に配慮する

感覚統合遊びでは、体を動かすことが多くなります。転倒や怪我のないよう、安全面には十分に配慮しましょう。必要に応じて、クッションやマットを敷いたり、危険な角にはカバーをしたりするなどの工夫が必要です。子どもから目を離さず、見守ることも大切です。

まとめ

感覚統合は、子どもの健やかな発達に欠かせない能力です。感覚統合を発達させる遊びやトレーニングを、家庭の中で気軽に取り入れることで、子どもの感覚処理の力を高めることができます。触覚、固有受容覚、前庭覚、視覚、聴覚それぞれに対して、子どもの特性に合わせた働きかけを行うことが大切です。

感覚統合の課題は、子どもの生活のさまざまな場面に影響を及ぼします。感覚統合遊びを通して、子どもの感覚の発達を促し、より充実した日常生活が送れるよう支援していきましょう。子どもの反応をよく観察しながら、楽しく無理なく行うことを心がけてください。子どもの健やかな成長を、周りの大人みんなで見守っていきたいですね。

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